大判カメラってどんなカメラ?
なんで大判なの?
あきれるほど豊富な
交換レンズ

一枚ずつしか取れない不便さは
利点でもあるのだ

アオリって何?



 現在では、4×5インチ判以上のシートフィルムを使えるカメラを大判カメラと呼んでいますが、これも時代によって変化します。例えば、35mmシネフィルムを流用した現在の小型カメラが登場するまで、小型カメラと言えばブローニーフィルムを使う現在の中判カメラのことでした。また職業によってもある程度認識の差があるようでTVマンなどは大判といえばバイテン(8×10インチ判)がまず頭に浮かぶし、写真館などの営業写真家はシノゴ(4×5判)といったアンバイ。
 カメラそのものの成り立ちはきわめて簡単明瞭且つ原始的なものです。近年シャッターや露出関係、深度計算などに電子技術が応用されつつありますが、主流は完全マニュアル操作できわめてアナログな世界なのです。
 その基本的な構造は、ピントを確認しシートフィルムを装幀するのが主目的の後枠部とシャッターとレンズがマウントされいわゆるアオリ機構をもつ前枠部、そして前枠と後枠を聚ぐ蛇腹によって構成されます。またよくビューカメラといいますがピントグラス=ビューファインダーからきたものと認識されています。
 タイプは大きく2種類に分かれています。一つはモノレール(オプティカルベンチ)に移動可能な前、後枠を独立して搭載するタイプ。
 ウィスタではテクニカルビューカメラと呼んでいます。このタイプは前後が独立している利点をいかして大きなアオリ量が得られ、レールを継ぎ足すことによって望遠撮影から接写まで応用範囲が非常に広く多様な表現に対応できます。もう一つは、箱型でヒンジタイプの蓋を持ち蓋の裏側にあるレールの上に前枠、箱が後枠になり箱の底がピント面になるタイプ。ウィスタでは折り畳めると言う意味でテクニカルコンパクトカメラと呼んでいます。
 携帯性に優れ、野外撮影向きのためフィールドカメラとも呼ばれています。木製暗箱はテクニカルコンパクトカメラのご先祖とも言えますが、現在では軽量さをかわれ復権しつつあります。ウィスタでは特にフィールドカメラと呼んでテクニカルコンパクトカメラに匹敵する機能を持たせています。


 大判の魅力、大判でなければならない理由、それは画面が大きいことにつきます。鮮明度、鮮鋭度、粒状性、階調などの画質は中、小型カメラとは比較にならない程優れています。情報量が多い大判では印刷、大伸ばしのプリントの作成などに威力を発揮するのです。
 現在では、非常にフィルムの粒子も微細なものが開発されもう35mmで充分と言う声もきかれますが、同じ銘柄の大判フィルムも発売されるのですからその差は永久に縮まらないわけです。同じことはディジタルでもいえます、単位面積辺りのCCD量と言う基本概念をやぶらない限り光学写真はアドバンテージを持ち続けるわけです。


  たとえば、ウィスタにはWISTARというレンズがありますが、これはウィスタのカメラにしか付かないわけではありません。大判カメラには専用レンズという概念はないわけです。これはレンジファインダーを搭載した機種にまで適応されます。レンズボードという板にレンズとシャッターがセットになって取り付けられたモノをユニットとしてモジュールの考え方が古くから定着しているのです。またたとえレンズボードの形状の違うカメラ同志でも簡単なアダプターによって互換性を確保している場合がほとんどですから、選択の自由度はあきれる程高くなるわけです。


  大判カメラのシートフィルムは営業写真家なら効率の悪さ、上級アマチュアならメカニカルな満足度を著しく引き下げる「つまづきの石」のように感じるかもしれませんが、たとえばポートレート撮影で同じカットでカラーネガは当然として、印刷用にリバーサル、ちょっとアンティークなプリント用にモノクロもといった場面では大変効率的でスマートになれるのです。
 また、現象も一枚一枚しますから、ラティチュードが狭くてプロでも100%の自信はなかなかもてないリバーサル撮影でも微妙に変化させた露出で同じカットを複数撮影しておいて、現像で調整したり、気に入った露出、または目的にあった露出を選択することも自由なのです。この記事の参考文献の玉田 勇氏の著書「大判写真入門」(写真工業出版社刊)では、アンセル・アダムスのゾーンシステムのテクニックを駆使したプリント作りに最も適しているのが大判特有の一枚撮りであると紹介されています。


  カメラは基本的にレンズの光軸が画面のセンターに垂直に交差するように設計されています。アオリは光軸を故意にずらすことによって画面効果を得ようという装置なのです。ティルトはレンズ面またはピント面を前後に傾ける操作、スウィングは同じく左右方向、ライズ・フォールは上下の平行、シフトは左右の平行移動です。
 アオリには大きく分けて、3つの効果が期待できます。まづ、被写界深度の調節、大判カメラでよく使われている長焦点レンズは深度が浅いため、画面とレンズ面が平行なだけでは、広範囲のピント合わせは困難ですが、ティルト、またはスウィングさせることによって解決できます。解りやすい例では結婚式や観光地の集合写真で、最前列から最後列までシャープに写っているのはこの効果によるものなのです。
 ティルトとスウィングにはもう一つパースペクティブのコントロール機能があります。今新宿の都庁の建築を撮影しようとしてピントグラスを覗くとそのままでは人間の目で見たのに比べかなり大げさなパースがついてデフォルメされています。これを自然なパースにまで修正するためにも使われるのです。さらに全くパースがつかないところまで変化させることも可能なのです。パースの修正ができたところで、作画上どうも空の比率が小すぎて息苦しさを感じたとします、そこでパースはそのまま空を多くしたいときにつかいのがライズ、逆に建築をぎりぎりまで撮り込みたければフォールを使って下げます。建築を左右のどちらかに寄せたい時はシフトということになります。
以上のような多彩な表現能力が大判カメラ(写真)の魅力といえるでしょう。